離婚したいという悩み
相手が離婚に応じてくれる可能性が高い場合、財産分与等の条件面での交渉になりますが、相手が離婚に応じてくれない可能性が高いのであれば、法律上の離婚原因を検討する必要があります。
離婚の種類
離婚は、大きく分けて、①協議離婚、②調停離婚、③裁判離婚に分けられます。
協議離婚
日本で最も多いのは協議離婚で、離婚全体の9割以上を占めています。双方が合意して、離婚届を役所に提出するだけなので、一番簡単な方法です。しかし、協議離婚の場合、離婚を急いだため、慰謝料・財産分与・養育費などの金銭面については、十分な合意をしておらず、後からトラブルになるケースが散見されます。協議離婚で、金銭的な合意をする場合には、約束が守られなかった場合に強制執行をすることができる公正証書を作成しておくことが重要です。
調停離婚
裁判所に離婚調停を申し立て、双方の合意が成立した場合に調停離婚となります。離婚調停とは、裁判所を通じた話合いなので、双方の合意が成立しなければ、調停は不成立となります。日本では、調停前置主義が採用されているため、まず調停を起こさなければ、離婚訴訟を起こすことはできません。調停が成立した場合には、調停調書が作成され、これは公正証書や判決と同じ効果があるので、強制執行をすることができます。
裁判離婚
離婚調停が不成立になった場合、離婚訴訟を起こす必要があります。離婚訴訟で離婚を認める判決が出ると、裁判離婚となります。裁判離婚は、法律が定める離婚原因がなければ認められません。ただし、訴訟の途中で、裁判所から和解勧告があり、双方の合意が成立すれば、裁判上の和解で離婚が成立することもあります。裁判上の和解の場合も、和解調書が作成され、これには判決と同じ効果があるため、強制執行をすることができます。
離婚原因とは
相手方が離婚に応じてくれない可能性が高い場合は、「離婚原因」があるかどうかを検討する必要があります。民法770条1項が定める離婚原因は、次の5つです。
- 配偶者に不貞な行為があったとき。
- 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
- 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
- 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
- その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
1~4は5の例示なので、1~4に該当しなくても、離婚原因が認められる場合があります。家庭内暴力(DV)、長期間の別居、性交拒否、犯罪、浪費などが考えられますが、これらが存在する結果、「婚姻を継続し難い重大な事由」があると評価できるかどうかが問題です。不貞行為は、第1号で明記されているため、離婚が認められる可能性が高いと言えます。家庭内暴力(DV)も犯罪なので、第5号として認められる可能性が高いと言えるでしょう。それ以外の事由は、様々な事情を総合的に判断することになります。離婚原因がある場合、それを立証する証拠が極めて重要になります。不貞であれば、写真・探偵の調査報告書・録音・配偶者の自白などが考えられます。また、暴力を受けている場合なら、怪我の写真や医師の診断書などを用意すると良いでしょう。しかし、離婚事件では、ご自身で、それぞれの証拠の価値が判断できないことが珍しくありません。お手元にある証拠に価値があるかどうかを判断するために、是非弁護士にご相談ください。
どれくらい別居期間があれば婚姻関係の破綻と認められるか
ケースバイケースですが、同居期間自体が短く、子どもがいない場合であれば、1年~2年の別居でも、婚姻関係の破綻と認められることがあります。
離婚原因がない場合(性格の不一致など)
離婚原因がない場合でも諦める必要はありません。弁護士が介入したり、別居して、離婚調停を起こすなどすることによって、離婚の意思が固いことを示せば、相手も諦めて離婚に応じてくれる場合があります。また、財産分与等の条件面で相手に有利な条件を提示することによって、離婚を促す方法も考えられます。訴訟を提起している間に、別居期間が長期になり、離婚が認められるというケースもあり得ます。裁判所としても、もはや気持ちがない夫婦を繋ぎ止めても意味がないと考えて、離婚に応じるよう相手に示唆することもありますので、根気よく諦めずに離婚を求めていくことが重要です。
有責配偶者からの離婚請求
離婚原因がある場合でも、有責配偶者(たとえば不貞をした方)からの離婚請求は、認められない場合があります。しかし、絶対に認められないわけではなく、下記の要件を満たした場合には離婚が認められる可能性があります。
- 別居期間が相当長期間(概ね10年前後)に及んでいる
- 未成熟の子がいない
- 配偶者が離婚によって過酷な状態に置かれるなどの事情がない
1番については、同居期間との比較もあるため、一概に言えませんが、公表されている裁判例では、未成熟子がいないケースで別居期間6年が最短となっています。
未成熟子がいる場合でも、事情によって離婚を認めている裁判例もあり、2番については、裁判所は、ケースバイケースで判断していると考えられます。
3番については、婚姻費用などの支払いをきちんと行い、慰謝料や財産分与などで相手に有利な提案をしている場合、離婚が認められやすくなります。できるだけ誠実に対応すれば、離婚が認められる可能性も高くなるというわけです。
法律上、有責配偶者として離婚が認められない場合であっても、根気よく諦めずに離婚を求めていけば、相手が折れたり、裁判所の仲裁が期待できることがあります。しかし、その場合でも、有責配偶者である以上、慰謝料や財産分与において、相手に有利な条件を飲むことを余儀なくされる可能性が高いでしょう。
親権と面会交流に関する悩み
裁判所が親権者を決定する際の考慮要素
母親・母性優先
乳幼児については、特段の事情がない限り、母親の監護養育にゆだねることが子の福祉に合致するという考え方です。乳幼児期には、母親の存在が情緒的成熟のために不可欠であって、スキンシップを含め、母親の受容的で細かな愛情が必要であるというのが根拠となっています。従来の裁判例はこの原則によるものが多く、現在でも家裁実務では、乳幼児の場合に母親が親権者と指定される事案が多いと言えます。
継続性の原則
これまで主に子の監護を担当してきた方が、引き続き子の監護をすべきと考えられています。子の健全な成長のためには、親と子の普段の精神的結びつきが重要なので、できるだけ養育監護者を変更すべきではないということが根拠とされています。
きょうだい不分離の原則
幼児期のきょうだいを分離すべきではないとされています。兄弟の関係を築くことが人格形成上貴重とされていることや、両親の離婚に加えてきょうだいの離別まで強制するべきではないことが根拠とされています。ただし、きょうだい不分離は、現在は、補助的な考慮要素とされています。
今後の監護体制の見通し
健康状態・経済状態・親兄弟の援助など、今後の看護体制に問題がないことが重要です。ただ、経済状態については、たとえ収入が少なくても、非監護親から養育費を受領することができるので、それを加味して判断され、収入が多い方が有利ということにはなりません。特に子が幼い場合、一緒に過ごせる時間が多い方が望ましいとされる傾向にありますので、仕事が忙しいというのは不利に働くことがあります。
従来の環境への適応度
子の安定的成長を考えれば、離婚に伴う環境変化は少ないに越したことはありません。そのため、現在の環境(地域、学校、友だちなど)を極力変更させない方向で考慮されることが多いと言えます。
子の意思
他ならぬ子自身の意思は、当然尊重されます。特に、子が15歳以上の場合、家庭裁判所は、子の意思を聴取しなければならないとされています。逆に、子が14歳未満の場合、年齢にもよりますが、子の意思を聴取することに慎重であるべきという考え方もあります。なぜなら、幼い子の意見を聴くと、両親のどちらかを選ばせることで忠誠葛藤に陥り、心理的に不安定になる可能性があるからです。
父親は親権を取れるか
司法統計では、離婚の際、親権は9割方母親になっています。令和2年度の統計では、調停または審判で親権を決めた事案18035件のうち、母が親権者となったのは16908件、父が親権者となったのは1635件です。
家庭裁判所は、夫婦が同居している間の主たる監護者が引き続き監護するのが子の福祉に適うと考えているので、現実には、母が親権者となるケースが大半なのです。
婚姻費用の悩み
婚姻費用の計算方法
婚姻費用は婚姻共同生活を維持するための費用であり、配偶者と子どもに対する扶養義務に基づくものです。つまり、子どもの養育費+配偶者の生活費です。原則として、収入の多い方が、少ない方に対して、支払います。
婚姻費用の額は、裁判所が公表している婚姻費用算定表に基づいて計算されます。算定表は、双方の収入を当てはめれば、素人でも分かるように作られていますが、現実には、裁判所で激しく争われるケースも珍しくありません。配偶者が自営業で確定申告書が正しくない場合、経営する会社の役員で報酬を自由に決定できる場合、配偶者が働いておらず収入が0円と主張される場合、配偶者が所得証明を提出せず収入が分からない場合など、様々なケースがあります。
婚姻費用の始期(いつから支払うか)
論理的には請求時からとされていますが、調停申立時からとする審判例も多く、注意が必要です。
婚姻費用の終期(いつまで支払うか)
離婚するまでです。
養育費の悩み
養育費は、子どもを養育するために必要な費用で、離婚した後、原則として、親権者とならなかった親が、親権者に対し支払うことになります。
養育費の計算方法
養育費は、子どもを養育するための費用であり、元配偶者の生活費は含まれていません。
養育費は、裁判所が公表している養育費算定表に基づいて計算されます。養育費算定表は、双方の収入を当てはめれば、素人でも分かるように作られていますが、現実には、裁判所で激しく争われるケースも珍しくありません。配偶者が自営業で確定申告書が正しくない場合、経営する会社の役員で報酬を自由に決定できる場合、配偶者が働いておらず収入が0円と主張される場合、配偶者が所得証明を提出せず収入が分からない場合など、様々なケースがあります。
また、算定表は、あくまで、通常の家庭を前提に作られているため、特殊な事情がある場合には、増減することもあります。
養育費算定表では2万円程度の幅を持った金額しか分かりませんが、実際はきちんと計算すれば1円単位で金額を算出することが可能です。しかし、養育費の計算方式は、個々の家庭の特殊事情を考慮せずに一般的な計算方法を示したものなので、必ずしも、1円単位で計算した結果が絶対に正しいというわけではありません。個別の事情によって、ある程度は増減し得るものであるため、2万円の幅を持たせているのです。
養育費の計算は、原則として、実収入によります。したがって、最新の源泉徴収票や確定申告書、課税証明書などが基礎になります。もちろん、最新の源泉徴収票よりも、現在の収入が減少している場合には、現在の収入が基礎になりますが、それを給与明細などで証明する必要があります。
養育費の始期(いつから支払うか)
論理的には請求時からとされていますが、調停申立時からとする審判例も多く、注意が必要です。支払う方は、請求時に遡って支払いを命じられるリスクがあるので、覚悟しておく必要があります。他方、支払いを受ける方は、調停を申し立てるまでは支払いを受けられないリスクがあるので、注意しておく必要があります。
養育費の終期(いつまで支払うか)
養育費については、子が未成熟子(経済的自立ができない状態)でなくなるときまでとされ、原則20歳までです。ただし、大学等に進学する場合は、卒業するまでになります。また、大学に進学する場合以外でも、未成熟子であると認められる間は、養育費の支払義務があります。
令和4年4月1日から、成年年齢が18歳となりましたが、家庭裁判所は、引き続き、原則20歳までとする姿勢です。これは、大学の他、専門学校等を含めれば、高校卒業後も、何らかの進学をしている者が多数を占めるという社会情勢を考慮したものです。したがって、子が幼い場合など、いつ自立するか分からない状況では、20歳までと定められることになります。
養育費の増減額請求
いったん養育費を決めた後でも、事情変更により、金額を変更することが認められています。
養育費の増減額は、双方の収入に変動があった場合のほか、配偶者が再婚して子が生まれたりした場合に発生するため、相手の事情によって、調停が申し立てられることがあります。それによって、養育費の額が予想外に大きく変わってしまうことがあるため、支払いを受ける方にとっては切実な問題です。もっとも、支払う方にとっても、収入が下がって支払不能に陥っていたり、新しい家族を養わなければならなかったりすれば、そう簡単に譲歩するわけにはいきません。
養育費を支払ってくれない場合
養育費を決めたにもかかわらず、相手方が養育費を支払ってくれない場合、強制執行を検討することになります。また、家庭裁判所に申し立てて、履行勧告をしてもらうこともあります。
ただし、強制執行を行うためには、調停・審判・判決等で養育費が決められているか、公正証書が作成されている必要があります。これらが存在しない場合には、まず調停を起こすところから始めなければならず、金額が決まるまでの数か月間、養育費が支払われないことになります。口約束で養育費を取り決めたけど、数年後に突然止まったというケースもあるので、離婚する際には、調停を起こすか、公正証書を作成しておくことが極めて重要です。
養育費に連帯保証人を付けることはできるか
せっかく約束しても、養育費を支払わなくなる人は珍しくありません。そういった場合に備えて、元配偶者の両親などに連帯保証人になって欲しいと考えるのは当然だと思います。
法律上は、養育費債権にも連帯保証人を付けることが可能です。しかし、あまり一般的ではなく、実現は困難なことが多いと言えます。
まず、連帯保証人を付けるには、当然、連帯保証人になってくれる人の了承が必要になります。養育費は、将来にわたって長期間支払うもので、金額も多額になる場合が多いので、そう簡単に了承してくれません。まして、元配偶者の両親と心情的に敵対している場合はなおさらです。
次に、弁護士も裁判所も、養育費に連帯保証人を付ける処理には積極的ではありません。そもそも、子に対する生活保持義務を負うのは親だけで、祖父母は負いません。連帯保証人を付けると、祖父母に孫に対する生活保持義務を負わせるのと同じ結果になってしまうので、法制度と食い違ってしまいます。
それに、養育費は、いったん金額が決まっても、収入の増減など、事情変更があった場合には、変更し得る性質を有するものです。それなのに、連帯保証人が付いていると、義務者は、支払いを怠っても、連帯保証人が支払ってくれるので、収入が減っても、減額調停を起こさないかもしれません。連帯保証人からすれば、本来減額されるべき養育費を支払っているのではないかという疑念を持つこともあるでしょうが、だからといって、義務者本人が減額を求めていないのに、連帯保証人が減額を求めるというのも困難です。この点でも、養育費は、やはり連帯保証に馴染まないと言わざるを得ないと思います。
慰謝料代わりに養育費を上乗せする手法
弁護士を付けない協議離婚で、慰謝料代わりに養育費を上乗せする約束をしているケースがありますが、支払う方・受け取る方、それぞれにとって、不利になる場合があるため、慎重に検討する必要があります。基本的には、慰謝料は慰謝料、養育費は養育費として合意するのが無難です。
- 養育費は給与の2分の1まで差押え可能
-
慰謝料は、給与の4分の1までしか差押えできませんが、養育費であれば、給与の2分の1まで差押え可能です。この点で、養育費の方が、貰う方に有利になります。
- 養育費は自己破産しても免責されない
-
慰謝料は、自己破産すると免責されてしまいますが、養育費であれば、免責されません。この点でも、養育費の方が貰う方に有利と言えます。
- 養育費は増減の可能性がある
-
養育費は、いったん合意しても、収入の増減や再婚など、事情の変更により、調停・審判を経て、増減する可能性があります。慰謝料代わりに養育費を上乗せしたのに、将来、減額調停を起こされるということも考えられるので、貰う方に不利に作用する場合もあります。
ただし、裁判所としては、事情が変更しても、上乗せした事情によっては、上乗せ分を考慮することがあります。たとえば、妥当な養育費が5万円のとき7万円の約束をしたのであれば、収入の減少によって妥当な養育費が3万円になっても5万円を支払うべきという判断になるということがあり得るわけです。
どうしても慰謝料を養育費に上乗せするという手法を取る場合、上乗せした理由を公正証書等に記載しておいた方が、将来、余計なトラブルが発生するのを防止することができます。
養育費に関するQ&A
- 高校卒業後、進学するかどうか分からないのに、養育費は、なぜ20歳までなのか?
-
統計上、大学・専門学校・その他の理由で、18歳を過ぎても学生を続ける割合が8割を超えているからです。令和4年4月から、成人年齢は18歳になりましたが、20歳までとする裁判所の扱いは変わりません。大学に進学した場合、親の収入や社会的地位からみて進学が不合理でなければ、卒業までとなります。
- 高校卒業後、進学せず、就職したとしても、20歳までなのか?
-
就職して自立した場合には、未成熟子ではなくなるので、養育費の支払いは終了します。
- 養育費の支払いをあらかじめ大学卒業時(22歳まで)と決めておくことはできるか?
-
義務者と合意すれば可能です。しかし、合意できない場合、子どもが小さいと、将来の大学進学は未確定ですから、20歳までと決められることが多いです。その場合、将来、進学が見込まれる時期に、期間を伸長する必要があります。
- 相手が大学進学に反対している場合にも学費を出させることができるか?
-
相手の経済状況からみて、不合理な負担でなければ、進学に反対していても、学費の負担義務があります。ただし、双方の収入に応じた応分負担となります。
- 学費が高額な医学部などに進学しても、学費を出させることができるか?
-
収入と比較して過大な負担となる場合、一定割合しか負担させることはできませんので、奨学金などを検討する必要があります。
- 塾や予備校代は請求することができるか?
-
収入と比較して相当な範囲内であれば、請求することができる場合があります。ただし、双方の応分負担になり、全額は認められないことが多いと思われます。
- スポーツや芸術などの習い事の費用は、別途請求することができるか?
-
進学と異なり、相手の承諾がないと請求することはできません。なお、学校の部活動にかかる費用は通常の養育費に含まれています。
財産分与の悩み
財産分与とは何か
財産分与とは、夫婦の実質的共有財産を清算する手続です。要するに、婚姻期間中に夫婦で築いた財産は2人のものなので、財産形成に寄与した割合に応じて分け合うということです。もちろん、夫婦の収入には差があるでしょうし、なかには専業主婦だった方もいるでしょうが、原則2分の1と考えられています。
財産分与は、婚姻期間が長くなれば多額に上ることがあるので、離婚後の生活を考えれば、極めて重要です。しかし、支払う方は、多額の支払いをしなければならない場合、激しく争い、時には財産を隠匿するケースもあります。また、離婚から2年という短期の除斥期間(民法768条2項)が存在するにもかかわらず、財産分与請求をしないまま放置して、権利を喪失する例もあるので、離婚時にキッチリ清算しておくことが重要です。
財産の隠匿について
財産分与では、財産の隠匿が行われることが良くあります。残念ながら、裁判所は、相手の財産を積極的に探してくれるわけではありません。こちらから相手の財産を指摘して、開示を求める必要があります。調査嘱託といって、存在することが明らかな預金の残高を調べたりする制度はあるのですが、存在するかどうかも分からない財産については、調査嘱託が認められないことが多いと言えます。したがって、別居前に相手方資産の資料を収集することが重要になります。たとえば、次の様な資料が重要になります。
- 預金通帳(その口座から他の口座へ振替送金している出入金記録も手掛かりになります)
- 証券口座
- FX口座
- 仮想通貨取引所口座
- 生命保険証券(生命保険料控除証明書)
- 銀行や証券会社からのダイレクトメール
裁判所の考え方
財産分与の審理の手順としては、まず、財産分与を求める側が、双方の資産について主張するわけであるが、最初に、相手の財産についての開示要求がされることが少なくない。この場合は、裁判所としても、まず、任意に開示を求めることになるが、このときに「財産全部を開示せよ」などといった抽象的な要求ではなく、「〇〇銀行の〇〇支店の預金があったはずだから、いつからいつまでの残高が記載された通帳を提出せよ」などといった、できるだけ具体的な開示要求をするように指導している。また、開示を求める方が、自分の財産を開示しないで、まず、相手方に開示を求めることがあるが、論外であって、まず、最低限自己の管理している財産を開示したうえで、相手方の財産の開示を求めるのが筋であろう。ともかく、ここが財産分与において一番もめる場面であって、裁判所としても、指導性を発揮して整理していく必要がある。
具体的な開示要求がされ、これに対する相手方の態度が明確になったなら、早期に一定の期間を設けて、まとめて調査嘱託や送付嘱託の申立てをさせ、メリハリのある審理をする必要がある。ここで探索的な調査嘱託や送付嘱託を許すと、いつまでたっても審理が終了しない懸念がある。調査嘱託を申し立てるにしても、そこに預金があるという、それなりの根拠が必要であろう。
なお、正当な理由なく資産の開示を拒む場合においては、場合によっては、弁論の全趣旨によって、財産分与を申し立てた側の主張が真実であることを前提として財産分与の判断をすることもやむを得ないといえよう。
離婚調停・離婚訴訟第3版・青林書院・209頁
残念ながら、財産分与に関しては、現在の裁判実務では、隠すと得すると言わざるを得ないので、別居時点において情報を入手しておくことが重要です。後述の離婚事件の審理期間の統計をみても、財産分与でもめると長期化する傾向にあるといえます。
財産を開示しないリスク
裁判所は、財産分与を申し立てている方が、一部であっても財産を隠していると認められる場合、財産分与請求自体を却下することができます。他方、財産分与を申し立てられている方が、一部であっても財産を隠していると認められる場合、裁判所としては、請求側の主張する財産が存在するものと認定したり、収入から推測される貯蓄額を認定したりして、財産分与を認めることができます。たしかに、裁判所は、隠匿している財産を積極的に探すわけではありませんが、隠匿していることが推測される場合であれば、それなりのペナルティを科すことができるのです。
財産分与の対象
基準時
夫婦の経済的協力関係の終了時の財産が対象です。通常は別居時ですが、単身赴任などで一緒に住んでいなかった場合には、どの時点かを特定する必要があります。
家庭内別居は基準時になるか?
「一方当事者が家庭内別居と思っていても、客観的な証拠がないことが多く、裁判所からみて具体的な日で特定することが困難であること、財産分与の基準時としては明確な方が望ましいという観点から、当事者間でその基準時を採ることに合意があるなど例外的な場合を除き、家庭内別居を基準として、対象財産を確定した事例は少ない」(離婚調停・離婚訴訟第3版・青林書院)と言われています。
特有財産の除外
特有財産とは、婚姻中の財産形成に他方配偶者が寄与していない財産のことです。
- 婚姻前から有していた財産
- 婚姻中に相続した財産
- 婚姻中に親から贈与を受けた財産
- 交通事故の慰謝料
証明責任は特有財産性を主張する方にあります
特有財産かどうか証拠上不明なものは、分与対象財産と推定されます。
婚姻時に有していた預貯金を、婚姻後の給与収入と一緒にし、あるいは家計の支払として使用していたケースなど、特有財産と実質的共有財産が混在して管理されていた場合はどうなるでしょうか?
「基準時における当事者名義の財産については特有財産部分の立証ができない場合は、その全体を夫婦の実質的共有財産として財産分与の対象となるとして取り扱うことが相当で、実際にも、夫婦の一方が婚姻時に有していた預貯金等の財産を婚姻後の取得財産と一緒の口座で管理し、どの部分が特有財産部分であるのかを判然と区別できないようにしていた場合には、夫婦財産契約が締結されていた場合等の特段の事情がない限り、婚姻生活において必要があれば特有財産部分を含めて夫婦の生活費に充てる意思であったと解するのが合理的であり、婚姻時の預貯金等については特有財産性を失ったものと解すべき」(家庭の方と裁判No10・17頁)とされています。
退職金
退職金も財産分与の対象です。ただし、将来受給するものであって、会社の経営状態によっては、支給が確実ではないこと、まだ手元にないお金なので、一括で支払うのが困難であるという特徴があります。そのため、昔は退職金を対象とすべきではないという議論もあったようですが、現在の裁判実務では、分与対象とされています。
慰謝料請求の悩み
不貞慰謝料請求
配偶者に不貞があった場合には、離婚に際し、慰謝料を請求することができます。昨今では、LINEや探偵の調査報告書などが証拠として提出されることが多くなっていますが、それによって不貞を証明することができるかは、弁護士でなければ判断が難しいため、まずはご相談ください。
その他の慰謝料請求
家庭内暴力(DV)、モラハラ、ギャンブル、浪費、性的不調和、その他、結婚期間中の様々な事情から、慰謝料請求が認められる可能性があります。長年の不満の蓄積があるため、必ずしも、日時や場所を特定することができなかったり、証拠がなかったりすることもありますが、それでも慰謝料請求が認められるケースがあります。
離婚訴訟においては、離婚原因となった個別有責行為については、日時・場所・態様が厳密に特定されることなく概括的に主張されるのが一般的であって、個別的にみると不法行為の要件を満たしているということはできないことが多い。さらに、下級審裁判例については、離婚の当否に際して認定した事実をそのまま離婚慰謝料を基礎づける有責性の認定に用い、離婚するにつき配偶者のいずれに主たる責任があるかが判断されれば、これによって原告が離婚により精神的苦痛を受けたとした上で、直ちに慰謝料を肯定する判断がされるというものが大半であり、慰謝料額の算定においても、有責行為の内容及び程度、婚姻期間等のほか「本件に現れた一切の事情を考慮して」などとして認定されるものが少なくない。
平成31年・令和元年度最高裁判所判例解説 126頁
離婚事件の解決にかかる期間
離婚事件は、解決まで、比較的長期間かかることの多い事件類型です。
最高裁判所の統計「人事訴訟事件の概況」によると、令和2年(2020年)の離婚訴訟の平均審理期間は14.2か月でした。被告側が口頭弁論をし(対席)、かつ判決に至った訴訟については、令和2年(2020年)で、平均19.1か月となっています。また、財産分与がある訴訟の平均審理期間は17.7か月。このうち判決に至るケースでは平均21.4か月。和解で終わるケースでは平均17.0か月(いずれも令和2年)となっています。財産分与がない離婚訴訟の審理期間は、平均12.1か月(令和2年)です。
離婚事件では、調停前置主義が採用されているため、離婚調停を経なければ、離婚訴訟はできません。令和2年度の裁判所統計(家庭裁判所における家事事件及び人事訴訟事件の概況及び実情等)によれば、令和2年度の平均審理期間は、調停が成立した場合で7.6か月です。ただし、この年は新型コロナウイルスの影響もあったと思われ、令和元年の統計では6.5か月となっています。なお、調停が取り下げられた事件では、平均4.3か月です(令和2年度)。
したがって、離婚事件では、調停で話がまとまる場合でも、半年以上かかり、調停で話がまとまられなければ、調停+訴訟で最低1年半以上かかることが珍しくないと言って良いでしょう。一日も早く終わらせたいと考えるのは当然ですが、相手と折り合わなければ、長丁場を覚悟しなければなりません。
弁護士費用
着手金
- 協議・調停
-
33万円
- 訴訟
-
44万円
解決報酬金
- 解決報酬金
(離婚の成立・不成立)44万円
(親権等の獲得)13万2,000円
(面会交流の合意・調停・審判・子の引渡し)13万2,000円 - 成果報酬金
(婚姻費用)2か月分
(養育費)2年分の11%
(財産分与)11%
(慰謝料)17.6%
法テラス
当事務所では、離婚事件の法テラス対応はしておりません。